このページは、リク編 第9話「ひとりにして」の絵本ページです。いつもの声で宿題のことを聞かれただけなのに、家から離れたくなったリクの時間を描いています。絵本のあとに、ことばのページ・本文書き起こし・保護者向けの読み取りメモを掲載しています。
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本文書き起こし
家の中は、静かだった。リクは、玄関にいた。くつは、そろっていた。外の音が、少しだけ、聞こえた。
後ろで、気配がした。「リク」おとうさんの声だった。「宿題、終わったか?」それだけだった。強い声じゃなかった。いつもの声だった。
リクは、立ったまま、止まった。返事を、しようとした。でも、なにを、どう言えばいいのか、わからなかった。
終わっていなかった。でも、やろうとは、していた。言いわけを、探した。ことばが、出てこなかった。胸のあたりが、ぎゅっと、なった。
リクは、振り向かなかった。くつに、足を入れた。ひもを、結ばなかった。気づいたら、そのまま、外に出ていた。
玄関の戸が、小さな音を、立てた。おとうさんは、追いかけて、こなかった。なにも、言わなかった。
リクは、早く、歩いた。どこへ行くかは、考えなかった。ただ、家から、少し、離れたかった。
ブロック塀の上に、ルリが、いた。座っていた。動かなかった。リクは、その前を、通りすぎた。目は、合わなかった。ルリは、ついて、こなかった。
少し、歩いて、リクは、立ち止まった。さっきの声を、思い出した。「宿題、終わったか?」それだけだった。
怒られていなかった。でも、つらかった。どうしてかは、わからなかった。
リクは、空を、見た。深く、息を、した。家の方を、見なかった。まだ、戻りたく、なかった。ひとりに、してほしかった。
保護者向けの読み取りメモ
第9話「ひとりにして」は、おとうさんから宿題のことを聞かれたリクが、返事をできないまま外へ出る場面を描いています。強く叱られたわけではなく、声もいつもどおりです。それでもつらい。ここには、言葉の強さだけでは測れない、その時点までに積み重なった負荷が表れています。
1. 返事をしたいのに、言葉が出ない
リクは無視しようとしたのではなく、返事をしようとしています。ただ、終わっていないことと、やろうとしていたことを、どう言えばよいかわかりません。説明する材料があっても、それをその場で言葉にまとめられないことがあります。
2. 胸のあたりが、ぎゅっとなる
言葉より先に、胸の感覚が描かれます。これは、本人にもまだ名前をつけられない緊張や苦しさの表れとして読めます。行動だけを見ると突然外へ出たように見えても、その前に体の中で起きていた変化があります。
3. 離れることは、逃げることだけではない
リクは行き先を考えず、家から少し離れようとします。距離を取る行動は、拒絶や反抗に見えることがあります。一方で、刺激や問いかけから一度離れ、自分の状態をこれ以上崩さないための動きとして起きる場合もあります。
ただし、実際に子どもが家の外へ出る場合は、安全確認が最優先です。無理に問い詰めず距離を取りながら見守ることと、道路・水辺・夜間など危険がある場面では大人が安全を確保することは別に考える必要があります。
離れることを許すとは、見放すことではなく、安全を確かめたうえで、本人が落ち着くための距離を一時的に認めることです。
4. ついてこないルリ
ルリはブロック塀の上に座り、リクを追いません。すぐそばへ寄るのでも、呼び止めるのでもなく、ただそこにいます。近づかないことも、見放すこととは限りません。本人が必要としている距離を保つ関わりとして描かれています。
5. 怒られていないのに、つらい
立ち止まったリクは、声を思い出します。怒られてはいません。それでも苦しさは残っています。出来事を客観的な強さだけで判断せず、その言葉を受け取ったときの本人の余力に注目すると、「ひとりにしてほしい」という感覚の背景が見えてきます。
関連する物語
同じテーマを、別の視点でも描いています。
・大人編 第9話「ひとりにして」――距離を取る子どもを見送る大人の側から
・ナオ編 第9話「ひとりにして」――離れることで守ろうとした内側から
※ 本記事は医療的な診断や治療、個別の支援方針の代替ではありません。困りごとが続く場合は、学校・自治体の相談窓口・発達障害者支援センター・医療機関などにご相談ください。
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