ナオ編

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【ひとりにして】近すぎると苦しい心と、ちょうどいい距離〈ナオ編 第9話〉

ナオ編・第9話 ひとりにして 教会の前まで来たとき、 ナオは足を止めた。 中から音はしない。 扉は閉まっている。 でも、ここは静かすぎて、 逆に入りやすかった。 ナオは扉に手をかけた。 押すと、少し重くて、 ゆっくり開いた。 きい、と小さな...
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【わるくないのに】責められていないのに涙が出る夜〈ナオ編 第8話〉

ナオ編・第8話 わるくないのに 夕方だった。 夕飯はもう終わっていた。 皿は片づけられて、 テーブルの上は、きれいだった。 リビングには、父とナオだけがいた。 父はソファに座って、新聞を広げていた。 ページをめくる音が、ときどきした。 ナオ...
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【集中できない】止まれなかった時間にあった“集中”の正体〈ナオ編 第7話〉

ナオ編・第7話 集中できない 教室は、いつもよりにぎやかだった。 机が後ろに寄せられて、床には大きな紙が広げられている。 文化祭の準備だった。 クラスの出し物は、演劇。 ナオは、大道具係になっていた。 背景の絵を描く役だった。 筆を持つと、...
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【見つからない】探しているのに見えてこない認知のズレ〈ナオ編 第6話〉

ナオ編・第6話 見つからない 玄関で、姉が立ち止まった。 靴はもうはいている。 カバンを肩にかけたまま、振り返った。 「ねえ。 昨日、教えてあげた宿題のプリント、持った?」 ナオは、少し間を置いて答えた。 「……入れた」 声に迷いはなかった...
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【手放せない】やめたいのに止められない夜に残っていたもの〈ナオ編 第5話〉

ナオ編・第5話 手放せない 部屋は、暗かった。
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【聞きなさい】聞いていたのに届かなかった言葉のすれ違い〈ナオ編 第4話〉

ナオ編・第4話 聞きなさい 夕食の時間だった。 テーブルの上に、湯気が立っていた。 ナオは、少し背筋を伸ばしていた。 今日は、話したいことがあった。 「今日のテストさ」 ナオは、箸を持ったまま言った。 「前より、点よかった」 父は、顔を上げ...
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【どうして?】答えられない沈黙の中で起きていること〈ナオ編 第3話〉

ナオ編・第3話 どうして? 校庭は、ざわざわしていた。 白い線と、たくさんの声。 試合の終盤だった。 ナオは、後ろの方にいた。 守る位置だった。 味方が、前に出ていた。 いい形だと思った。 ナオは、一瞬だけ、考えた。 次は、どこに動くか。 ...
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【ちゃんとしなさい】“ちゃんと”の基準が見えないまま動けなくなる理由〈ナオ編 第2話〉

ナオ編・第2話 ちゃんとしなさい 教室は、ざわざわしていた。 朝の音が、まだ残っている。 ナオは、席に座っていた。 ノートを、机の上に出している。 宿題のページも、ひらいてあった。 順番が来て、前に出た。 ノートを、先生の机の上に置いた。 ...
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【早くしなさい】急かされるほど止まってしまう心の内側〈ナオ編 第1話〉

ナオ編・第1話 早くしなさい 玄関は、少しせまかった。 朝のにおいがしていた。 姉は、もう靴をはいていた。 かかとを入れて、ドアに手をかける。 「行ってきます」 言い終わる前に、外へ出ていった。 ドアは、閉まらなかった。 冷たい空気が、玄関...