このページは、リク編 第10話「がんばれ」の絵本ページです。もうがんばっているリクの中に、いつもの「がんばれ」が重く残る朝を描いています。絵本のあとに、ことばのページ・本文書き起こし・保護者向けの読み取りメモを掲載しています。
← スワイプまたはボタンでページをめくれます →
本文書き起こし
朝だった。食卓に、音があった。お皿の音。お茶の音。イスの音。
リクは、座っていた。目の前に、ごはんがあった。でも、あまり見ていなかった。口は、動いていた。でも、ゆっくりだった。
おとうさんは、時計を見た。カバンを持った。上着を、羽織った。
「リク」いつもの声だった。「がんばれ」それだけだった。強い声じゃなかった。ふつうの声だった。
リクは、うなずいた。「うん」小さく、言った。それから、立ち上がった。食べかけのまま、部屋の方へ、歩いた。
おとうさんは、気づかなかった。「行ってくる」そう言って、玄関へ向かった。
外に出ると、人の音がした。リクは、歩いた。まっすぐ、歩いた。足は、動いていた。
「がんばれ」さっきの言葉が、残っていた。がんばる。もう、していた。でも、そう言うのは、むずかしかった。
角を曲がったところで、コーキがいた。同じ方向へ、歩いていた。「よ」コーキは、軽く言った。リクは、うなずいた。
コーキは、リクの歩き方を、見た。それから、一言だけ言った。「……今、休んでないだろ」
リクは、止まらなかった。でも、少しだけ、まばたきが増えた。返事は、出なかった。出せなかった。コーキは、それ以上、言わなかった。
リクは、歩いた。その言葉は、まだ、残っていた。でも、重いまま、歩けてしまった。
保護者向けの読み取りメモ
第10話「がんばれ」は、日常的な励ましの言葉が、すでに力を使っているリクの中に重く残る場面を描いています。おとうさんの声は強くありません。それでも、言葉の意図と、受け取る側の状態によって生まれる重さは同じではないことが表れています。
1. 食べているけれど、ゆっくりしている
リクの口は動いています。何もしていないわけではありません。ただ、視線はごはんから外れ、動きはゆっくりです。朝の時点ですでに、行動に使える力が少なくなっている可能性があります。
2. ふつうの声でも、重くなる
「がんばれ」は、責めるための言葉ではありません。おとうさんにとっては、いつもの励ましです。しかし、受け手がすでにがんばっているとき、さらに力を求められたように感じることがあります。言い方だけでなく、受け取る側に残っている余力が、言葉の重さを変えます。
「がんばれ」という言葉そのものが悪いわけではありません。大切なのは、相手がすでに力を使い切っていないかを見ながら、言葉を選ぶことです。
3. 「うん」と答えて、席を離れる
リクは反発せず、小さく返事をします。その後、食べかけのまま部屋へ向かいます。返事ができたことと、言葉を受け止められたことは同じではありません。表面上の従順さの内側に、離れたくなる感覚が隠れている場合があります。
4. 「もう、していた」を言えない
外を歩きながら、リクは「もう、していた」と感じます。ただ、それを言葉にするのは難しい。自分が使ってきた力は外から見えにくく、本人も説明しにくいことがあります。結果だけでは見えない努力が、この短い言葉に集まっています。
なお、子どもが外へ出る場面は、ひとり歩きを勧める意図ではありません。年齢や状況に応じて、道路・通学路・時間帯などの安全確認は大人が行う必要があります。
5. 歩き方を見るコーキ
コーキは、リクの答えを求める前に歩き方を見ます。そして「今、休んでないだろ」と言います。言葉の内容より先に、体に表れている状態へ目を向けています。問題をすぐに解決せず、今も力を使い続けていることに気づく視線が置かれています。
関連する物語
同じテーマを、別の視点でも描いています。
・大人編 第10話「がんばれ」――励ましの言葉を渡す大人の側から
・ナオ編 第10話「がんばれ」――もうがんばっている側の内側から
※ 本記事は医療的な診断や治療、個別の支援方針の代替ではありません。困りごとが続く場合は、学校・自治体の相談窓口・発達障害者支援センター・医療機関などにご相談ください。
同じ場面を、大人の視点から読む
大人編「第10話 がんばれ」を読む →
同じ場面を、ナオの視点から読む
ナオ編「第10話 がんばれ」を読む →
📩 あなたの「思い出した場面」を聞かせてください
ひとことで大丈夫です。名前もメールアドレスもいりません。
いただいた声は、月に一度「読者のことばのページ」でご紹介することがあります。
▶ 次のお話を読む
第11話「ぼくのペース」を読む →














