夜中、布団の中から明かりが漏れていました。
子どもが、寝床へスマートフォンを持ち込み、動画を見ていたのです。
私はスマートフォンを取り上げました。
寝る時間なのに、なぜやめられないのか。
その頃の私には、眠ることよりも動画を見ることを優先しているように見えました。
日中も、宿題に使っているはずの端末で動画を見ていることがありました。
見つけるたびに注意し、言葉は少しずつ強くなっていきました。
「やること、終わったか?」
「いつまで端末に操られているんだ」
けれど、子どもは後に、こう言いました。
「やることはあるけど、・・・」
言葉は、そこで止まりました。
今回は、端末を手放せないように見えた子どもと、「先にやることを終わらせればいい」という考えを繰り返した私について振り返ります。
※この記事は、すべての家庭に当てはまる対応方法を紹介するものではありません。ひとつの家庭で起きたすれ違いと、保護者としての試行錯誤をまとめた記録です。
必要だと思って渡したスマートフォン
子どもが中学生の頃、スマートフォンを持たせました。
これからの時代には、デジタル機器を使う力が必要になる。私はそう考えていました。
ところが、使い始めると、長い時間スマートフォンを見ていることが増えました。
私には、夢中になって、なかなか手から離せないように見えました。
その後、スマートフォンの使い方を見直したこともあります。それでも、学習にも使う端末は必要でした。
宿題をしていると思っていたら、動画を見ていることがある。
私は、そのたびに声をかけました。
「動画を見ているのか」
声をかけると、宿題のための動画だと返ってくることもありました。
どこまでが宿題で、どこからが別の動画だったのか、私にはすべてを確かめられたわけではありません。
ただ、私の目には、やるべきことよりも動画へ戻ることを優先しているように映っていました。
「先に終わらせればいい」と、私は考えていた
私は、動画を見てはいけないと言いたかったわけではありませんでした。
先に宿題を終わらせる。
夜は眠る。
やるべきことを終えたら、動画を見ればいい。
私にとっては、それが自然な順番でした。
「スマートフォンやタブレットに使われるのではなく、自分が使う側になってほしい」
そう何度も話しました。
動画に時間を取られれば、宿題が終わらない。夜遅くまで起きていれば、翌日の生活にも影響する。時間を無駄にしてしまうのではないか。
そうした心配がありました。
やがて、日中に眠くなっている様子が見られるようになりました。
夜の動画視聴だけが原因だったかは分かりません。それでも私は、心配していたことが現実になったように感じ、さらに焦りました。
同じことを何度伝えても、端末へ戻る。
そのたびに、私の口調は強くなりました。
取り上げれば、その場は終わった
布団の中で動画を見ていた夜、私はスマートフォンを取り上げました。
その後、子どもは眠ったのではないかと思います。しかし、実際にすぐ眠れたかどうかまでは確認していません。
宿題中に動画を見ているように感じたときは、手が止まるたびに声をかけました。
声をかければ、子どもは宿題へ戻りました。何度か促しながら、その日の宿題を終えたこともありました。
私は、それで対応できたと思っていたのかもしれません。
けれど、端末を取り上げたことと、子どもが自分で区切りをつけられたことは同じではありません。
声をかけて宿題へ戻ったことと、次から自分で切り替えられるようになったことも同じではありません。
その場を終わらせることはできても、なぜ手放しにくかったのかは、分からないままでした。
「やることはあるけど、・・・」
私は長い間、「やるべきことを先に終わらせればいい」と考えていました。
だから、子どもが端末を見続けると、やるべきことを後回しにしているように見えました。
なぜ、すぐ動画を見てしまうのか。
なぜ、先に宿題を終わらせないのか。
私は、そう考えていました。
しかし、子どもは「やることはあるけど、・・・」と話し、言葉を止めました。
本人の言葉から、やることがあるとは分かっていたのだと、私は受け取りました。
ただ、その先に何を言おうとしたのかは、確かめられていません。「手放せない」と本人が明確に話したわけでもありません。
その理由までは聞き取れていません。動画の何がそうさせたのか、本人の中でどのようなことが起きていたのかも、私には分かりません。
それでも、言葉が途中で止まったことは、私が考えていた「やるべきことが分かれば、やめられる」という見方だけで決めつけてよいのか、考え直すきっかけになりました。
物語の「怠けているわけではない」に、立ち止まった
大人編第5話「手放せない」には、次の一節があります。
「先にやることがあるだろう」
それは正しい順番だった。
「……あとで」
小さな声が返る。
怠けているわけではない。
けれど、動かない。
出典:コーキの探偵日記 大人編 第5話「手放せない」
「先にやることがあるだろう」という言葉は、私が伝えていたことと重なります。
私にとって、その順番は正しいものでした。
一方で、「怠けているわけではない。けれど、動かない」という部分を読んだとき、私は立ち止まりました。
物語の登場人物と、実際の子どもの気持ちが同じだと決めつけることはできません。
ただ、私は実際の子どもに対しても、「分かっているのに、やらない」と見ていたのではないかと思いました。
本人が言いかけた「やることはあるけど、・・・」の続きを、私はどこまで待てていただろうか。
そのことを考えるきっかけになりました。
前の記事「子どもに『聞きなさい』と言ってしまうとき|『聞いている』の返事に私が求めていたこと」では、返事があっても「伝わっていない」と感じたとき、私が何を求めていたのかを振り返りました。
「できない」と「やらない」を、簡単に分けられなかった
当時の私は、「できないこと」と「やらないこと」は違うと考えていました。
本当はできるのに、やらない理由にしているのではないか。
やる前から「できない」と決めれば、努力する機会までなくなるのではないか。
そう心配していました。
その考えは、今も自分の中に残っています。
一方で、「やればできるはず」という自分の基準だけで見てよいのだろうか、と考えるようにもなりました。
できていないことを注意するだけでなく、何なら取り組みやすいのか、どんなことに力を発揮できるのかにも目を向けたい。
そう思うようになりました。
子どもが端末を手放せなかったことを振り返りながら、私自身もまた、「先にやるべきことを終えるのは当然だ」という見方を、なかなか手放せなかったのだと思います。
怒る前に、一息つくようにした
その後、私は話し方を見直すようになりました。
以前は、同じことが繰り返されるほど、強い口調で注意していました。
今は、すぐに言葉をぶつけないよう、まず一息つく。
伝えたいことを頭の中で整理してから、ゆっくり話す。
短い言葉で、時間をかけて伝える。
そう心がけています。
いつもできるわけではありません。我慢できず、強く言いそうになることもあります。
以前より、宿題に集中しているように感じる場面はあります。
ただ、それは私の印象です。話し方を変えたことだけが理由なのかは分かりません。端末を手放しにくい場面がなくなったわけでもありません。
怒らずに話せば解決する、という話ではありません。
私の側が、子どもの行動だけを急いで変えようとしないための見直しです。
次に試したいのは、切り替える場所を一緒に探すこと
これまでは、端末を見ていると、私はまず「やることは終わったか」と尋ねていました。
その言葉の中には、「今すぐやめて、宿題へ戻ってほしい」という私の答えが、すでに入っていました。
次に同じような場面があったら、すぐに取り上げたり、正しい順番を説明したりする前に、
「今、何を終わらせる必要がある?」
「どこで一度止められそう?」
と、区切りを一緒に探す聞き方を試してみたいと思います。
これは、今回振り返る中で考えた、これから試したい方法です。すでに実践して効果を確かめた方法ではありません。
本人が考えた区切りなら必ず守れる、とも思っていません。
それでも、親が止めるか、子どもが見続けるか、という二つだけにしないための問いにしたいと思っています。
手放してほしかったのは、端末だけだったのか
私は、スマートフォンや動画そのものを否定したかったわけではありません。
眠ること。宿題を終えること。翌日の生活を整えること。
そうしたことを大切にしてほしかったのです。
けれど、その思いが強くなるほど、私は「先にやることを終えればいい」という答えを繰り返していました。
子どもが端末を手放せないように見えたとき、私は行動を止めることを急ぎ、その前に何が起きていたのかを尋ねる余裕を持てませんでした。
本人が「やることはあるけど、・・・」の先に何を言おうとしたのかは、今も分かりません。
分からないままでも、少なくとも「分かっているなら、できるはず」とだけ考えないようにしたいと思います。
端末を手放してほしいと願っていた私自身は、何を手放せずにいたのだろう。
正しい順番へのこだわりか。
「やればできるはず」という見方か。
それとも、すぐに行動が変わることへの期待か。
子どもに端末を置くよう求める前に、自分が握っているものにも目を向けていきたいと思います。
「手放せない」を、物語でも読む
同じ「手放せない」というテーマを、それぞれの立場から描いた物語もあります。
物語の登場人物の気持ちと、実際の子どもの気持ちを同じだと決めつけるのではなく、自分の言葉や見方を振り返るきっかけとして読んでいただければと思います。
参考情報
厚生労働省の「こどもの睡眠」では、睡眠不足や夜型生活によって、起床困難や日中の眠気などが生じることがあると紹介されています。発達障害情報・支援センターの「基本的な支援原則」では、困りごとを本人の努力だけに帰さず、本人の状態に合わせて環境を整え、課題を小さな段階に分けるなどの考え方が示されています。
これらは、この記事に登場する子どもの状態や原因を判断するために挙げるものではありません。睡眠や端末の使い方を考える際の一般情報として参照しています。
免責・相談の案内
この記事は、保護者としての経験と公的機関の一般的な情報をもとにしたものであり、診断・治療・個別の支援方針を示すものではありません。睡眠や日中の眠気などの困りごとが続く場合や、生活への影響が大きい場合は、学校、医療機関、地域の相談機関などへご相談ください。
※本文に登場する状況は、家庭で実際に起きたことをもとに、個人が特定されない形でまとめています。
