ナオ編・第4話 思想章
思想章:聞いていても、残らないことがある
「聞きなさい」という言葉は、
聞くことと理解することを、ひとつにしてしまうことがあります。
① この言葉が生まれる場面
家でも学校でも、
人はときどき「聞きなさい」と言われます。
ちゃんと話を聞くこと。
最後まで受け止めること。
返事ができるようにすること。
大人にとっては、
相手に届いているかを確かめるための言葉でもあります。
けれど、
聞いていたことと、
そのあとに答えられることは、
必ずしも同じではありません。
② ナオの中で起きていること
ナオは、父の言葉を聞いていなかったわけではありません。
「そうか」と言われたこと。
うれしかったこと。
伝えられたこと。
その時点で、
ナオの中ではひとつ区切りがついていました。
そこへ次の問いが来ると、
頭の中では、さっきまで話していたことと、
今聞かれたことがうまくつながらなくなることがあります。
聞いていた。
でも、すぐには返せない。
そんなずれが生まれていました。
③ 外から見える姿と内側の出来事
外から見ると、
返事が止まった人は「聞いていない」ように見えることがあります。
反応が遅い。
視線がずれる。
話が続かない。
そうすると、
「今、別のことを考えていた」と判断されやすくなります。
けれど内側では、
聞いたことをたどり直したり、
どこから話せばいいか探したりしていることがあります。
聞くことと、
すぐに答えられることは、
いつも同じではありません。
④ すれ違いを少し減らすために
話が届いたかどうかは、
その場の返事だけではわからないことがあります。
少し時間をおくこと。
見る場所を変えること。
一度、落ち着ける場所に移ること。
そうすると、
頭の中でばらばらだったものが、
少しずつつながることがあります。
「聞いていない」と決める前に、
今はまだ返せないだけかもしれない、
と考える余白があると、すれ違いは少し減ります。
⑤ ナオの中に残ったこと
ナオは、
ちゃんと伝えたつもりでした。
でも、
そのあとに求められていたやり取りには、
うまくついていけませんでした。
話すことと、
聞くことは、
同じではないのかもしれない。
そう思えたことが、
この夜に残った小さな気づきでした。
すぐに答えられなくても、
聞いていなかったことにはならない。
その感覚が、少しだけ形になり始めていました。
⑥ こんな様子を、見たことはありませんか?
何度も同じことを伝えたのに、また同じことを聞かれる。
「ちゃんと聞いてた?」と確かめると、「聞いてた」と答える。
でも、内容が残っていない様子。
反抗しているのでも、適当に返事しているのでもない。
ただ、音は届いていたけれど、整理が追いつかなかっただけ。
……そんな朝を、見たことはありませんか。
「聞きなさい」が届かないとき、それは
子どもの集中力が足りないのではなく、
入ってきた言葉が、頭の中で渋滞していたということがあります。
ナオの中で起きていたのも、その整理しきれない時間でした。
⑦ 内側を見るときの、観察ポイント
① 視線がこちらを向いているか、別の場所にあるか
目があっているように見えても、視線の焦点は別のところにあることがあります。
逆に、視線が外れていても、耳は確実に聞いていることもあります。
② 「うん」と返事するタイミング
即答の「うん」は、内容を処理しきれていないサインのことがあります。
一拍置いてからの「うん」のほうが、整理が終わった合図かもしれません。
③ 説明後に質問が出るかどうか
質問が出るのは、内容が頭に入って処理中である証拠。
逆に、何も聞かれないときは、まだ入りきっていない可能性があります。
④ 同じ内容を再度聞かれるパターン
どこで何回詰まったかを観察すると、子どもの中で
どの部分が残りにくいかが見えてきます。
⑧ 同じ場面を、別の視点で読む
同じ場面を、別の視点からも描いています。
どれも、同じ世界の物語です。
- 大人編 第4話「聞きなさい」──父の側で起きていた焦り
- 大人編 第4話 思想章「聞くという言葉のすれ違い」──「聞く」という言葉のすれ違いの構造
- ナオ編 第7話「集中できない」──同じ「容量オーバー」が、別の形で出る場面
※ この物語は、診断や治療、支援方針の代替ではありません。
困りごとが続く場合は、専門の医療機関・相談機関にご相談ください。